<< Canon AF35M | main | Canon Autoboy S (SURE SHOT Z115) >>

Canon Autoboy TELE6

携帯性:★★
操作性:★★★
機能性:★★★★
描写力:★★★★
快適度:★★★
 2003年11月購入。35mm/60mmの二焦点切り替えに加えて、35ミリフィルムのフルサイズ/ハーフ判の切り替えが可能という異色のカメラ。フルサイズ機としては特に魅力はないが、安かったのでハーフ判のカメラとして購入。それ以外にも、実用性があるとも思えない数々の怪しい機能が満載のバブルの申し子。

携帯性:★★ − スペックからは想像できないほど大きなボディ

 これまた大柄なカメラです。Autoboy Sに匹敵する大きさで、コンパクトではないコンパクトカメラです。横幅と高さはAutoboy Sよりも大きく、レンズ部の突起がない分数字上は厚みは小さいものの、Autoboy Sが115mmまでの望遠ズームを搭載していることを考えると、ボディ部の厚みはむしろこちらの方が大きく、スペックとは不相応なほどに分厚いです。ただしその厚みが幸いして、余裕を持った曲線で構成されたグリップは、貼り付けられたゴム皮の感触と相まってホールディングは良好です。

 とにかく大きなカメラなので、バッグに入れるにもポケットに入れるにも大きすぎて、気軽に持ち出す携帯性は全くありません。「コンパクトカメラ」としてではなく、後述の満載された機能を楽しめる人でなければ持ちたいカメラではないでしょう。

操作性:★★★ − ストロボ制御が一切できないのは痛すぎる

 撮影モードの絵文字など存在しない時代のカメラなので、基本操作はシンプルです。撮影に必要な操作は、電源を兼ねた焦点距離設定のスライドスイッチで焦点距離を設定するだけです(電源OFF/ワイド/テレ)。これは明快で良いです。ただし電源を入れても沈胴レンズは収納されたままで、レンズカバーも閉じたままなので、一見しただけでは電源が入っているのかどうかが分かりません。ついつい電源を切るのを忘れてしまいます。

 現在のカメラと違うのは、ストロボが完全自動制御になっていて、強制発光や発光禁止などの設定がユーザには一切できないところです。一般向けカメラとしての性格と時代を考えれば分からなくもないですが、せめてオン/オフの操作はできて欲しかったです。何より困るのが、レディランプがないのでストロボが発光するかどうかが分からない点です。ちょっと薄暗かったりすると、どんな結果になるのか分からずにシャッターを押す羽目になります。

 その他、カメラぶれ確実と思われる小さく押しづらいバルブシャッターのボタン、やたら多機能な割には小さく押しづらいオートデートのボタンなど、はっきり言って操作性は良くありませんが、どうせ使わない機能なのでこれでいいのかもしれません。

 もう1点挙げると、電池室のロックがコインで回すネジタイプのもので開閉に手間がかかるのも不便です。蓋を落としてなくしちゃいそうになるのも困る。

機能性:★★★★ − 必要もない怪しい機能が満載

 これまでにも書いてきましたが、このカメラはとにかく多機能で、そのほとんどが一体誰が使うのか?と疑いたくなる必要性の低いものばかりで、しかもその操作がやたらとやりづらいという、まさにバブルの申し子と言うべき機能の詰め込みぶりは天晴れです。以下、その雑多な機能を見ていきましょう。

1. 二焦点レンズ

 35mm F3.5と60mm F5.6の2つの焦点距離を切り替えて使うことが可能な、二焦点レンズを搭載しています。これは広角側が38mmではなく35mmということもあり、まずまず実用的です。ですが、望遠側が60mmというのはいかにも短すぎで、望遠と言うよりは標準みたいなものです。それならばもう少し焦点距離を短くして32mm/55mmとか30mm/50mmに設定してくれた方が使いやすかったです。でも「TELE6」という名前が示すとおり、特にハーフサイズ時の望遠を強調していたようなので、仕方ないと言えば仕方ないですね。元々はテレコン(レンズ前面に装着して焦点距離を伸ばすコンバージョンレンズ)が付いて合成焦点距離が75mmとなって、35/60/75mmの3種類の焦点距離を持ち、さらにハーフサイズを利用することでその2倍、計6種類の焦点距離を持つことから「TELE6」と名づけられたようです。なお、残念ながら僕が買ったジャンク品にはテレコンはついていませんでした。

2. フルサイズ/ハーフサイズ切り替え機構

 このカメラの最大の特徴で、通常の35ミリフィルムのフルサイズ(24×36mm)の画面だけではなく、その半分の画面サイズ(17×24mm)のハーフサイズでも撮影が可能です。撮影面積が半分になることで大きく引き伸ばしたときの画質は低下しますが、フィルムの製造技術の進んだ現在ではサービスサイズのプリントであれば満足な画質が得られ、なおかつ通常の2倍の枚数が撮影になるというメリットがあります。撮影途中での切り替えはできませんが、文句なく素晴らしい機能です。というか、このハーフ撮影ができなければこのカメラを買うことはありませんでした。なお、ハーフサイズ時のレンズの焦点距離はフルサイズ換算で49mm/84mm、テレコン装着時の合成焦点距離は110mm相当ということです。

3. 最長4秒までのバルブシャッター

 ここからが奇妙な機能のオンパレードです。4秒しかシャッターが開かないのにバルブと名乗るのもおかしなものです。おまけに通常のシャッターボタンではなく、専用の小さな押しづらいボタンを押さなければならず、よほどしっかりした三脚を利用しなければカメラぶれを起こしてしまいそうです。せめてバルブモードの設定ボタンにとどめて、シャッターは普通のシャッターボタンを使うようにすればよかったのに。しかも、バルブシンクロでストロボを発光できるようになっているのですが、これまた同じような小さい専用ボタンを押さなければならず、ほとんど使ってくれるなと言っているに等しい有様です。ストロボ制御スイッチを設けておけばこんなことにはならなかったのに。現在のように撮影モードの設定が未発達な時代に夜景をバックにした記念撮影を可能にした点では意欲的なのでしょうが、これではあまりに使いづらいです。はっきり言っちゃうと、誤操作の恐れもあるのであるだけ邪魔。

4. ティルト

 おお、なんとシフトレンズ付きなのか、さすがキヤノン。と思うことなかれ。まさか、そんなはずがありません。ボディ下部から1cmほどの短い足が伸びて、カメラを傾けることができるだけです。その足の引き出す部分に「▲TILT」と記されているのです。

 これを一体何に使うのかというと、記念撮影ですね。テーブルなんかにカメラを置いたときに、もうちょっとレンズに角度をつけてを上を向けたいと思った時に使うわけです。それだけ。たいしたものではありませんが、初期のAutoboyにはこのTILTのついたカメラがいくつかありました。要は「チルトスタンド」ですね。ティルトじゃなくてチルト、なんだな。日本語は。

5. 成長記録

 生年月日を入力しておくと、現在の年齢(何歳何ヶ月)が写真に写しこまれる、というものです。映し込みはいいとしても、年齢なんて撮影年月日が分かっていればすぐに分かるものなんだから、こんな機能がどうして必要なのか、さっぱり分かりません。誕生日を設定しておけるのは1人だけだし。というか、よくこんな変テコリンな機能を思いついたものです。まさに無駄な機能の典型。でも後に京セラがZoomate140GRFというカメラに成長記録機能を搭載してるんだよな・・・。

6. インターバル撮影

 設定した時間の間隔をおいて撮影ができる機能です。天体撮影や定点観測には使うことのある機能ですが、記念撮影向けのコンパクトカメラで果たして必要なのかといえば・・・。つーか、説明書がないから使い方が分からん。

7. 多様な写し込み機能

 フィルムへの写し込みは成長記録の年齢だけでなく、もちろん4タイプの日付・時刻の写しこみがフルサイズ/ハーフサイズともに可能ですし(ハーフの映し込みは貴重)、さらにはフィルムのコマ数まで写し込みが可能です。そんなもの何に使うのか。ハーフで撮るとコマ数が増えるので、整理のためでしょうか?Autoboy Sでもキャプション機能として5種類のメッセージの写し込み機能があったように、キヤノンはこういった写し込みがお好きなようです。

8. フィルム装填日確認

 これらの要らぬ機能の賜物でしょうか。裏蓋のオートデート機構の中に、フィルム装填日を確認する機能がついています。あまり使わないカメラだと「あれ?このフィルムはいつ入れたんだっけ?」なんて思うことも多いので、これはなかなかいい機能です。でも、それを確認したいのはフィルムを抜いた後だったりすることも多いわけで、フィルムを抜いてもリセットされずに、新たにフィルムをセットするまで前回の装填日が保持されるともっといいんだけど。

 以上のように、ほとんどが無駄な機能ばかりでなので、いくら多機能とは言っても実用性が低いので、採点は星4つです。もうちょっと実用的な機能だったらねえ・・・。

描写力:★★★★ − ボケは汚いがシャープで鮮やか、満足な写り

 最初に撮影したフィルムの仕上がりを見てまず感じたのは、発色が鮮やかだということです。特に赤の発色が鮮やかな印象です。シャープネスもあって、コンパクトカメラとしては十分な描写性能です。

 ハーフサイズで撮影する場合はフルサイズ画面の左右をマスクしてレンズ中央部を利用しているので、周辺光量落ちが気になることはありません。プリントの拡大率が高くなるため、空やシャドウ部にややザラつきが見られる場合もありますが、それ以上にハーフサイズとしての恩恵の方が大きいと思います。普通にISO100のカラーネガフィルムからのLサイズのサービスプリントを見ていても、これがハーフ判だとは全く分かりません。非常に好印象です。

 描写とは関係ありませんが、フィルムのローディング時の巻き取り量が多いようで、ハーフ判の1コマ目はフルサイズの1コマ目の後半から始まっていて、巻き取り量が少なければもっと撮れるのになあと感じてしまいました。それでも24枚撮りフィルムで49枚撮影できたので、十分なんですけどね。これが500円で同時プリントできてしまうのだから、実にお得です。ハーフ判、良いですなあ。

 気になるのは、ボケが非常に汚いことです。ボケというよりは、まるでカメラぶれを起こしたような感じになります。一見すると手ブレか?と思わせますが、ピントの来ている所はきちんと写っていて、ボケが汚いことが分かります。二焦点の望遠側で顕著なようです。望遠用のコンバージョンレンズの特性なのか、あるいは元々汚いボケが望遠効果で拡大されて目立つのか、原因は定かではありませんが、望遠側でボケを利用した作画は避けた方が賢明でしょう。

 また近距離での描写はかなりシャープですが、被写体までの距離が離れるとシャープネスに欠ける印象があります。遠景モードもないので、普段は5メートル程度までの近距離で使うのが良いと思います。

快適度:★★★ − 使う幸せは微塵もないが最高のネタカメラ

 ホールディングはしやすくファインダーも比較的見やすい方ですが、大柄なボディは普段持ち歩くにはあまりに大きすぎますし、無駄な多機能ぶり、安っぽい操作感、びっくりするほど大きな動作音など、カメラを使う幸福感は微塵もありません。快適、という言葉は全く似合わないカメラです。

 動作音を大きくしている原因と思われるのが、独特な撮影時のレンズ駆動です。電源を入れてもレンズはカバーが閉じたままで、一体どうなっているのかと思えば、シャッターを押すといきなりけたたましい音とともにレンズがニョキっと飛び出してくるのです。発売当時の広告では「突然レンズ」というコピーを用いていたようですが、まさにそのとおりです。特に焦点距離設定を望遠側にしているときのレンズの飛び出しようは笑っちゃうほどで、電源が入っていないフリをしてこんな動作で撮影をすれば周囲に受けること間違いありません。前述の数々の無駄な機能とあわせて、人と話すネタには事欠かない愉快なカメラです。

主な仕様

発売
1988年3月 希望小売価格 52,800円
レンズ
35mm/F3.5(3群3枚)、60mm/F5.6(6群6枚) 二焦点切り替え式
シャッター
1/60〜1/350秒、バルブボタン付き:最長4秒、インターバル撮影可能
合焦方式
近赤外光投射による三角測量方式
露出制御
CdS素子使用、完全自動プログラム式EE、測光連動範囲:EV9.5〜17(ISO 100)
フィルム感度使用域:ISO 25〜3200(DXコード)
ストロボ
内蔵固定式、ガイドナンバー10.5(ISO 100・m)、低輝度時自動発光、発光停止不可
外観
133×72×50mm/330g(電池2CR5含む)
その他
35ミリフィルムフルサイズとハーフ判切り替え可能
    # written by Snapshot BLUES | - | - | 写真 > カメラ > コンパクトカメラ -